地方にいる食品衛生監視員のブログ

あなたのお役に立ちますように(たまにネガティブなことも書きます…笑)

有症苦情のこと

この仕事に就いて初めて聞く言葉は沢山あります。

有症苦情って何でしょうか? 

お店で頼んだもの、スーパーで買ったものを食べた後で体調不良になったという申し出のことです。略して「有症入った」なんて言います。なんだか業界用語っぽいですね。食中毒の取っ掛かりなので慣れないうちは少し緊張します。あと職場も少し緊張が走ります。

 

体調不良と言っても様々ですが、

・お腹が痛くて下痢が出ている

・吐き気がある、または吐いている

・熱が出て節々が痛い

こういったのが食中毒の典型的な症状です。「なんか胃がムカムカする」とだけ訴える人もおり、単に食べ過ぎただけ、油物が体に合わなかったと思われる人もいますが、ひとまずは有症苦情として扱います。 

 

<対応方法について>

探知は3通りあります。体調不良の申し出がお客さんからか店からか医者からかです。

人によって対応方法は微妙に違いますので、あくまで僕の方法という前提ですが、お客さんの話を聞く時は4W1Hを意識しています。「〇日何時何分、どこで、誰と、何を食べ、どのような症状が起きたか、ほかに外食したか」をざっくり聞きます。聞いた内容によって枝分かれします。例えばですが、

 

①さっき一人で蕎麦屋に行き、蕎麦を食べて30分後に下痢をした。こだわりの店のようで、自家製の手打ち麺が売りだ。

 

②1週間前に子供が学校で給食を食べ、その2日後に下痢、嘔吐が何回も出た。クラスの子たちは元気に登校している。夫も最近同様の症状が出ている。

 

③2日前、友達と居酒屋に行き、今朝起きたら下痢・発熱が出た。居酒屋の前日、別の友達と焼肉屋に行った。焼肉はうまく焼けずに赤いままのものあり、居酒屋では鳥刺しを食べた。

 

①の場合ですが、食べて30分後に下痢を起こす菌、ウイルス、毒素はまずありませんので、この蕎麦屋が原因の可能性が極めて低いです。しかし、原因ではないと言い切るのも良くありませんので、情報提供として受け取り、ほかにも同じ人が現れたら調査させてくださいと言い、名前や連絡先等の個人情報を聞いて終わります。万が一、同じような症状がいろんなグループで出たとき、食中毒の可能性が濃くなるからです。その万が一に備えることが大事です。

(内心、これは食中毒じゃないでしょと高を括っていると、どんどん同じような訴えが増えていき、定時に帰れないことを覚悟します…泣)

 

もしこれが30分後に下痢ではなく30分後に嘔吐だとしたら、黄色ブドウ球菌を疑います。食べてから30分後に体調不良を起こす食中毒はほとんどありませんが、黄色ブドウ球菌でしたらあり得ますし、人の肌に普通にいるものなので、手打ち蕎麦であれば尚更疑われます。この場合、多くの監視員はお店の調査に行くことを選ぶでしょう。

 

②の場合ですが、子供が症状が出てから5日も経っています。下痢嘔吐は食中毒の典型的な症状ですが、もし給食が本当に原因であれば、この5日間に膨大な数の申し出があるはずです。特に学校のような給食施設はそれが顕著に現れます。なので給食が原因の可能性が極めて低いと言え、特に立入はしません。連絡したのがお母さんだと思いますが、お父さんが最近同じ症状が出たということは家庭内で何かしらの感染症にかかったことが疑われます。そのため、家族同士で手が触れる場所、トイレ、風呂場などはこまめに消毒してくださいと言って終わります。

 

③の場合ですが、食中毒の可能性が濃いですので、友達含めてしっかり話を聞きます。どの自治体も食中毒専用の調査票を持っていますので、それを活用します。そしてすぐに居酒屋、焼肉屋の両方に立入する準備を行います。この初動の早さが命です。救急と同じです。

 

有症苦情は玉石混交です。食中毒に繋がる貴重な情報もある一方で、個人的な体感としては多くは無関係な情報です。なぜ無関係な情報が届くかというと、

体調を崩した時、多くの人は直前に食べた外食や購入品が怪しいと思うからです。

 「あれ、なんかすごいお腹痛くなってきた…そういえばさっき○○っていう店に行ったな…なんかお店も汚かったし怪しいなあそこ…」という具合です。店員の態度も悪いと余計に保健所に電話してやろうと思っちゃいますね。こう思うのは無理もないことです。

 

ですが食べてすぐに症状が起きることは基本的になく、本当は何日か前に自分が作った料理が原因だったり、誰かから胃腸かぜをうつされたたり…ということがあります。有症苦情一つとってもいろんなケースがあり、連絡するお客さんもいろんな人がいて、お店が原因で間違いないといって聞かない人もいます。

 

有症苦情の時に食監として大事なことは、

・食中毒の可能性があるかどうかを見極める知識と経験

・食中毒の可能性があれば初動対応の仕方、可能性がなければ納得してもらうトーク

 

この2つです。最初のうちは大変ですが数をこなすと慣れますし、自分なりのパターンを持ち、「この有症苦情ならこういう対応をする」というイメージトレーニングを普段からすると良いです(僕は仕事中に時間がある時、もし今医者から体調不良の連絡が来たら…とか、もし高齢者施設の給食で食中毒が起きたら…というイメトレを行っています)。1人くらい対応がうまい先輩が職場にいるものなので、そういう人の技術を盗んだりしましょう。

 

ちなみに他自治体であるA県から「そちらの自治体の人が我々A県○市にある店を利用したら、体調不良になったとの申し出があった。こちらで店の調査を行うので患者の症候学的調査をよろしく」といった具合に、患者調査の依頼が来ることを「流れ弾」と言います。これも業界用語っぽくて面白いですね。他自治体に患者がいて、自分の自治体に原因と疑われる店がある場合は何て言うんでしょうかね?