地方にいる食品衛生監視員のブログ

あなたのお役に立ちますように(たまにネガティブなことも書きます…笑)

カンピロその1 法律の限界について

細菌性の食中毒が増える時期になりました。今回はカンピロバクターについて書きます。

 

2018年の統計では食中毒の原因物質2位でした。319件の事件中、患者が1995人。1件あたりの患者数の平均は6.25人なので、比較的規模の小さい食中毒です。カンピロバクター食中毒が起きる原因は大きく分けて2つあります。

①一次汚染されたもの(生、生に近い半生の鶏肉料理)を食べる

②二次汚染されたもの(鶏肉を扱った手、器具を介して作った料理)を食べる。

 

食監の方はこの違いの深さが分かるかと思います。起きた結果は同じです。体調を崩すまでの日数、起きる症状も同じ、世間的に見た処分も同じ。件数もただの1件としてカウントされるだけ。ですが起きるまでの過程、業者・客・役所の態度の差、業者の悪質さ、食品衛生法の限界など…色々と感じることがあると思います。今回、現場目線で伝えたいのは①の方です。

 

①の生、生に近い半生の鶏肉料理というのは鳥刺し、とりわさ、鶏のたたき、レバ刺し等のことです。食鳥処理の段階で内臓を抜き取って中抜きと体にするんですが、どれだけ注意しても腸管を傷つけてしまうことがあり、結果的にカンピロの汚染を受けた状態で出荷されます。いくら新鮮でも菌が付着したまま飲食店に届き、加熱せずに出すことで感染します。

 

ここで問題なのは単に加熱されずに出されることだけではありません。問題なのは、

・カンピロのリスクがあると分かっているにも関わらず、提供していること

・すべての客がリスクを承知で食べているわけではないこと

食品衛生法で禁止されているわけではないこと

・営業禁止になっても発表されにくいため、社会的ダメージがないこと

 

1つ目に関しては、店を構えて飲食のプロとして営業している以上、カンピロのリスクを知らないはずがありませんし、仕入先から加熱用と知り得ても、あえて生で出している店もあります。知らずに出していた、よりもたちが悪いです。

 

3つ目に関してですが、これは私たちが一番苦労するところだと思います。私たちは「体調を崩した。鳥刺しも食べた」という連絡を受けるたびに店へ調査に行き、鳥刺しのリスクについて説明し、出すのは控えるよう指導をします。それで「分かった。出すのは止める」と言ってくれたらいいのですが、中にはリスクを分かってもらえず適当にはぐらかされたり「はいはい」とだけ言ったり。リスクを分かっていたとしても「でも禁止されてないんでしょ?」の一言で終わりです。そのたびに徒労感を覚え、どれだけ危険性を伝えても同じです。

私は同じ店に対する有症苦情(症状がある苦情のこと)を期間をおいて何度も受けたことがあります。毎回同じ店長に会って、また来ましたよって感じで同じ話をします。そのたびに何も変わらないんだろうなという虚しさを覚えます。実際、鶏の生食提供は禁止されてませんし、九州の一部では郷土料理ということでスーパーにも売っているそうです。おそらくこのやり取りは全国のあちこちの店で起きていると思います。牛肝臓や豚の食肉のように、規格基準を設けて法律で制限しなければ、この先も同じ事件は起き続けると思いますが、まずそれは困難だと思います。それに一消費者として、個人の食の楽しみを奪うというのも如何なものかと思う自分もいます。

 

4つ目ですが、自治体や事件のケースにもよりますが、患者数が少ないと店名は公表されません。最初でも示した通り、1件あたりの患者数の平均は6.25人なので、基本的に公表されません(少なくとも私の自治体はそのような扱いです)。

そうするとどうなるか。食中毒と断定して何日間か禁止されたとしても、外から見れば「今はただ休業中か」となるだけです。わざわざ張り紙に「営業禁止になりました」と書くはずもないため、この店が営業禁止になっていると分かる消費者は当の患者たちだけです。何食わぬ顔で再開すれば分かりません。そのため、業者にとってみれば数日間の利益がないだけで、社会的ダメージはありません。公表しないことで鶏肉の生食のリスクも認知されません。同じことが繰り返されるだけです。仮に「もう鶏肉の生食料理は出しません」と言われて営業禁止を解除したとします。喉元過ぎればでしょうか、その後にやっぱり鶏肉の生食料理を再開していたと分かっても指導レベルです。強制的に出させないようにする手段はありません。

 

①と②の違いは業者の悪質性です。②はいくら気を付けても少しのミスでサラダや刺身へ菌が広がり、不可抗力的に起きてしまうこともあり、こちらとしては起きたことはしょうがないと思えますが、①はそうではありません。危険な運転を自ら進んでしているものです。私個人としては①のような原因で食中毒を起こした業者、食中毒にならなくても①が原因と思われる有症苦情を繰り返す業者については割と冷たいです。態度には出しませんが、心の中では「次はないからな」と思って帰ります。なので、もしそのような悪質な業者に出会ったなら、いざという時は徹底的にやってやるくらいで思った方がいいです。

 

ちなみに業者によりますが「あなたのお店で事故を起こしほしくない」という気持ちを伝えると効果がある時もありました。ちょうど、死にたいと言っている人に「あなたが死ぬと私が悲しい」と伝えるように。理論的な言い方もしつつ、あえて感情を出すことも必要だと思います。