地方にいる食品衛生監視員のブログ

あなたのお役に立ちますように(たまにネガティブなことも書きます…笑)

有症苦情のこと

この仕事に就いて初めて聞く言葉は沢山あります。

有症苦情って何でしょうか? 

お店で頼んだもの、スーパーで買ったものを食べた後で体調不良になったという申し出のことです。略して「有症入った」なんて言います。なんだか業界用語っぽいですね。食中毒の取っ掛かりなので慣れないうちは少し緊張します。あと職場も少し緊張が走ります。

 

体調不良と言っても様々ですが、

・お腹が痛くて下痢が出ている

・吐き気がある、または吐いている

・熱が出て節々が痛い

こういったのが食中毒の典型的な症状です。「なんか胃がムカムカする」とだけ訴える人もおり、単に食べ過ぎただけ、油物が体に合わなかったと思われる人もいますが、ひとまずは有症苦情として扱います。 

 

<対応方法について>

探知は3通りあります。体調不良の申し出がお客さんからか店からか医者からかです。

人によって対応方法は微妙に違いますので、あくまで僕の方法という前提ですが、お客さんの話を聞く時は4W1Hを意識しています。「〇日何時何分、どこで、誰と、何を食べ、どのような症状が起きたか、ほかに外食したか」をざっくり聞きます。聞いた内容によって枝分かれします。例えばですが、

 

①さっき一人で蕎麦屋に行き、蕎麦を食べて30分後に下痢をした。こだわりの店のようで、自家製の手打ち麺が売りだ。

 

②1週間前に子供が学校で給食を食べ、その2日後に下痢、嘔吐が何回も出た。クラスの子たちは元気に登校している。夫も最近同様の症状が出ている。

 

③2日前、友達と居酒屋に行き、今朝起きたら下痢・発熱が出た。居酒屋の前日、別の友達と焼肉屋に行った。焼肉はうまく焼けずに赤いままのものあり、居酒屋では鳥刺しを食べた。

 

①の場合ですが、食べて30分後に下痢を起こす菌、ウイルス、毒素はまずありませんので、この蕎麦屋が原因の可能性が極めて低いです。しかし、原因ではないと言い切るのも良くありませんので、情報提供として受け取り、ほかにも同じ人が現れたら調査させてくださいと言い、名前や連絡先等の個人情報を聞いて終わります。万が一、同じような症状がいろんなグループで出たとき、食中毒の可能性が濃くなるからです。その万が一に備えることが大事です。

(内心、これは食中毒じゃないでしょと高を括っていると、どんどん同じような訴えが増えていき、定時に帰れないことを覚悟します…泣)

 

もしこれが30分後に下痢ではなく30分後に嘔吐だとしたら、黄色ブドウ球菌を疑います。食べてから30分後に体調不良を起こす食中毒はほとんどありませんが、黄色ブドウ球菌でしたらあり得ますし、人の肌に普通にいるものなので、手打ち蕎麦であれば尚更疑われます。この場合、多くの監視員はお店の調査に行くことを選ぶでしょう。

 

②の場合ですが、子供が症状が出てから5日も経っています。下痢嘔吐は食中毒の典型的な症状ですが、もし給食が本当に原因であれば、この5日間に膨大な数の申し出があるはずです。特に学校のような給食施設はそれが顕著に現れます。なので給食が原因の可能性が極めて低いと言え、特に立入はしません。連絡したのがお母さんだと思いますが、お父さんが最近同じ症状が出たということは家庭内で何かしらの感染症にかかったことが疑われます。そのため、家族同士で手が触れる場所、トイレ、風呂場などはこまめに消毒してくださいと言って終わります。

 

③の場合ですが、食中毒の可能性が濃いですので、友達含めてしっかり話を聞きます。どの自治体も食中毒専用の調査票を持っていますので、それを活用します。そしてすぐに居酒屋、焼肉屋の両方に立入する準備を行います。この初動の早さが命です。救急と同じです。

 

有症苦情は玉石混交です。食中毒に繋がる貴重な情報もある一方で、個人的な体感としては多くは無関係な情報です。なぜ無関係な情報が届くかというと、

体調を崩した時、多くの人は直前に食べた外食や購入品が怪しいと思うからです。

 「あれ、なんかすごいお腹痛くなってきた…そういえばさっき○○っていう店に行ったな…なんかお店も汚かったし怪しいなあそこ…」という具合です。店員の態度も悪いと余計に保健所に電話してやろうと思っちゃいますね。こう思うのは無理もないことです。

 

ですが食べてすぐに症状が起きることは基本的になく、本当は何日か前に自分が作った料理が原因だったり、誰かから胃腸かぜをうつされたたり…ということがあります。有症苦情一つとってもいろんなケースがあり、連絡するお客さんもいろんな人がいて、お店が原因で間違いないといって聞かない人もいます。

 

有症苦情の時に食監として大事なことは、

・食中毒の可能性があるかどうかを見極める知識と経験

・食中毒の可能性があれば初動対応の仕方、可能性がなければ納得してもらうトーク

 

この2つです。最初のうちは大変ですが数をこなすと慣れますし、自分なりのパターンを持ち、「この有症苦情ならこういう対応をする」というイメージトレーニングを普段からすると良いです(僕は仕事中に時間がある時、もし今医者から体調不良の連絡が来たら…とか、もし高齢者施設の給食で食中毒が起きたら…というイメトレを行っています)。1人くらい対応がうまい先輩が職場にいるものなので、そういう人の技術を盗んだりしましょう。

 

ちなみに他自治体であるA県から「そちらの自治体の人が我々A県○市にある店を利用したら、体調不良になったとの申し出があった。こちらで店の調査を行うので患者の症候学的調査をよろしく」といった具合に、患者調査の依頼が来ることを「流れ弾」と言います。これも業界用語っぽくて面白いですね。他自治体に患者がいて、自分の自治体に原因と疑われる店がある場合は何て言うんでしょうかね?

 

法改正で思うこと(営業許可編)

新年度になりました。よろしくお願いします。2021年6月でいろいろ変わりますね。

今回は新たな営業許可について書きます。

 

現行の34許可業種については、新設や統合をされて32許可業種になります。

・食品衛生上のリスクが大きいものは要許可へ(漬物製造業、液卵製造業等)

・     〃   が小さいものは不要許可へ

・まとめても支障のないものは1許可へ(味噌又は醤油製造業)

 

ざっくり言うとこんな感じです。漬物は不要許可でしたが、平成24年に札幌市で起きた食中毒(これは浅漬ですが)等の事件もあり、要許可になりました。逆に乳類販売業はただ冷蔵して売るだけで、ほとんどリスクがないので不要許可になりました。

(余談ですが、数年前のことです。仕事から保健所に帰る途中、町のとある売店に何気なく寄ったところ、小さなショーケースに牛乳が陳列されてありました。許可証も見当たらなく、許可があるかどうか検索してから話をしにまた来ようと思い帰ったら、その店の店主が乳類販売業の許可申請をしていたことがありました。名札を外して入店したんですが、何か察知したんでしょうか…。お咎めなしでしたがこういう無許可の摘発も減りそうです)

 

個人的にこの改正はとても歓迎です! なぜなら、

現状をしっかりと反映していて、業者と僕らの負担が減る傾向にあるからです。

 

食品衛生上のリスクに合わせて要許可と不要許可に振り分けられ、牛乳、包装食肉、丸売り魚、氷雪販売などは許可審査に行く必要がなくなりました。飲食の片手間でこういうことをやりたいお店や、町や病院の売店からよく相談があるかと思いますが、手洗い設備が作れなかったり、不浸透性材料でなかったり…。これでは許可が出せないと言って揉めませんでしたか? 今後はこういう揉め事も減り、許可審査に伴う事務処理も減ることでしょう。そもそもリスクがほとんどないのに、許可が必要なのかと疑問に思ってましたので、こういうマイナーチェンジは本当に嬉しいです。

 

それともう1つ大きいのが、カップ式自販機です。ほとんどのカップ式自販機は自動洗浄付きで屋内にあり、喫茶店営業を取得していると思いますが、それらの許可審査がなくなります

これ地域によってはかなり嬉しくないですか?

僕は一時期、とある工場地帯を担当していたことがあります。工場によっては敷地が広く、点々とカップ式自販機が置いてあるところもあり、しょっちゅう許可審査に行ってしました。しかも入るにはセキュリティーが厳しいところが多く、あらかじめ○○さんと約束をし、守衛で入る手続きをし、広大な工場の何階かまで歩いて行き…。飲食店のように気軽に「こんにちわ~」とか言って入れる感じではありません。自販機1台見るだけで結構大変です。某業者の方から聞いた話では、ある有名企業の工場に入るには1か月前から手続きをしなければならなく、守衛から先もたどり着くのが大変なので、そもそも見に行かない保健所もあるそうです。これからお互い楽になりそうです。

 

何気に統合されるのも嬉しいポイントです。

・清飲の許可があれば乳酸菌飲料も作れるようになる

食用油脂の許可があればマーガリン、ショートニングも作れる

・そうざい製造業があれば弁当も作れる(今までは飲食店営業が必要)

 

その他にいろいろありますが、業者は余分に許可を取らなくてもいいこと、それによって生じる事務処理や無許可の発見が減るメリットがあります。多いと1工場で8許可くらいあり、更新時期もばらばらだと毎年行くなんてこともざらでしたが、それも減りそうです。

 

もちろん大変なことも多いと思います。区画や区分の考え方、新たな許可の範囲の解釈など、詰めることはいろいろありそうですし、今までの考え方を一新して、新しい考え方を脳に叩き込まないといけません。もし私が50歳前後ならついていけずに退職を決めると思います。それと、漬物製造業はお爺ちゃんやお祖母ちゃんが台所や物置でやっているところもあり、そういう店は廃業を避けられないと思います(個人的にこういう店に行くのは好きですが…)。営業許可については6月以降にまた書きたいと思います。

カンピロその1 法律の限界について

細菌性の食中毒が増える時期になりました。今回はカンピロバクターについて書きます。

 

2018年の統計では食中毒の原因物質2位でした。319件の事件中、患者が1995人。1件あたりの患者数の平均は6.25人なので、比較的規模の小さい食中毒です。カンピロバクター食中毒が起きる原因は大きく分けて2つあります。

①一次汚染されたもの(生、生に近い半生の鶏肉料理)を食べる

②二次汚染されたもの(鶏肉を扱った手、器具を介して作った料理)を食べる。

 

食監の方はこの違いの深さが分かるかと思います。起きた結果は同じです。体調を崩すまでの日数、起きる症状も同じ、世間的に見た処分も同じ。件数もただの1件としてカウントされるだけ。ですが起きるまでの過程、業者・客・役所の態度の差、業者の悪質さ、食品衛生法の限界など…色々と感じることがあると思います。今回、現場目線で伝えたいのは①の方です。

 

①の生、生に近い半生の鶏肉料理というのは鳥刺し、とりわさ、鶏のたたき、レバ刺し等のことです。食鳥処理の段階で内臓を抜き取って中抜きと体にするんですが、どれだけ注意しても腸管を傷つけてしまうことがあり、結果的にカンピロの汚染を受けた状態で出荷されます。いくら新鮮でも菌が付着したまま飲食店に届き、加熱せずに出すことで感染します。

 

ここで問題なのは単に加熱されずに出されることだけではありません。問題なのは、

・カンピロのリスクがあると分かっているにも関わらず、提供していること

・すべての客がリスクを承知で食べているわけではないこと

食品衛生法で禁止されているわけではないこと

・営業禁止になっても発表されにくいため、社会的ダメージがないこと

 

1つ目に関しては、店を構えて飲食のプロとして営業している以上、カンピロのリスクを知らないはずがありませんし、仕入先から加熱用と知り得ても、あえて生で出している店もあります。知らずに出していた、よりもたちが悪いです。

 

3つ目に関してですが、これは私たちが一番苦労するところだと思います。私たちは「体調を崩した。鳥刺しも食べた」という連絡を受けるたびに店へ調査に行き、鳥刺しのリスクについて説明し、出すのは控えるよう指導をします。それで「分かった。出すのは止める」と言ってくれたらいいのですが、中にはリスクを分かってもらえず適当にはぐらかされたり「はいはい」とだけ言ったり。リスクを分かっていたとしても「でも禁止されてないんでしょ?」の一言で終わりです。そのたびに徒労感を覚え、どれだけ危険性を伝えても同じです。

私は同じ店に対する有症苦情(症状がある苦情のこと)を期間をおいて何度も受けたことがあります。毎回同じ店長に会って、また来ましたよって感じで同じ話をします。そのたびに何も変わらないんだろうなという虚しさを覚えます。実際、鶏の生食提供は禁止されてませんし、九州の一部では郷土料理ということでスーパーにも売っているそうです。おそらくこのやり取りは全国のあちこちの店で起きていると思います。牛肝臓や豚の食肉のように、規格基準を設けて法律で制限しなければ、この先も同じ事件は起き続けると思いますが、まずそれは困難だと思います。それに一消費者として、個人の食の楽しみを奪うというのも如何なものかと思う自分もいます。

 

4つ目ですが、自治体や事件のケースにもよりますが、患者数が少ないと店名は公表されません。最初でも示した通り、1件あたりの患者数の平均は6.25人なので、基本的に公表されません(少なくとも私の自治体はそのような扱いです)。

そうするとどうなるか。食中毒と断定して何日間か禁止されたとしても、外から見れば「今はただ休業中か」となるだけです。わざわざ張り紙に「営業禁止になりました」と書くはずもないため、この店が営業禁止になっていると分かる消費者は当の患者たちだけです。何食わぬ顔で再開すれば分かりません。そのため、業者にとってみれば数日間の利益がないだけで、社会的ダメージはありません。公表しないことで鶏肉の生食のリスクも認知されません。同じことが繰り返されるだけです。仮に「もう鶏肉の生食料理は出しません」と言われて営業禁止を解除したとします。喉元過ぎればでしょうか、その後にやっぱり鶏肉の生食料理を再開していたと分かっても指導レベルです。強制的に出させないようにする手段はありません。

 

①と②の違いは業者の悪質性です。②はいくら気を付けても少しのミスでサラダや刺身へ菌が広がり、不可抗力的に起きてしまうこともあり、こちらとしては起きたことはしょうがないと思えますが、①はそうではありません。危険な運転を自ら進んでしているものです。私個人としては①のような原因で食中毒を起こした業者、食中毒にならなくても①が原因と思われる有症苦情を繰り返す業者については割と冷たいです。態度には出しませんが、心の中では「次はないからな」と思って帰ります。なので、もしそのような悪質な業者に出会ったなら、いざという時は徹底的にやってやるくらいで思った方がいいです。

 

ちなみに業者によりますが「あなたのお店で事故を起こしほしくない」という気持ちを伝えると効果がある時もありました。ちょうど、死にたいと言っている人に「あなたが死ぬと私が悲しい」と伝えるように。理論的な言い方もしつつ、あえて感情を出すことも必要だと思います。

入庁前後のギャップ

どの仕事でも働く前後でギャップを感じることは沢山あると思います。例え第一希望と会社に入れたとしても、例え念願の食品衛生監視員になれたとしても。

 

私の場合、思ったよりも人間関係がいい、休みを取りやすい、お酒を強要されない等のいい面もありますが、「こんなはずではなかった」と思うことの方が多いです(他の公務員の職種と違って特に食監は)。深刻さが大きい順で言えば、

①予定にない緊急出動があること

食監とは全然違った仕事を兼任させられること

食監の仕事であっても行う意義が乏しいことまでやらなければいけないこと

④たまにあるハードな市民、業者への対応

 

①は本当に深刻です。なぜなら楽しみにしていた友達との約束、料金を支払ってしまった旅行、二度といけないライブ等々、あらゆる予定をキャンセルし、重い腰を上げて定時後も仕事を続けなくてはなりません。休日もお構いなしに上司から電話がかかってくるため、すぐに職場に向かわないといけません。365日、年末年始も関係ありません。私は正月に緊急の呼び出しで出勤したことがあり、患者宅で聞き取りをし、見ず知らずの家族と正月を迎えたことがあります。あれほど気持ちがこもっていない「あけましておめでとうございます」を発したのは後にも先にも一回きりです。いっそ携帯を解約してやろうかと思います。さらに、連休の時こそ外食が多いので、連休とはどこ吹く風、ということにもなりかねません。

そもそもなぜ緊急で動かないといけないかというと、全ては感染が広まるのを防ぐためです。もし食中毒が原因であれば、その店が営業し続ける限り、汚染が広がり、新たな被害者が生まれてしまいます。また、時間が経つにつれ、食中毒の調査の精度が落ち、食中毒と断定するのが難しくなります。金曜の夕方に「体調崩したんだけど」という連絡が入れば、「じゃあ月曜日に行きます」とは基本的に言えません。

 

②は自治体によると思います。食監だけのところもありますが、食監に付随して環境衛生、動物行政、薬事関係等の仕事を兼任しているところもあります。先に調べておけば踏ん切りがつきましたし、先にそのような業務があると調べていない自分が悪いのかもしれませんが、とにかくやる気が起きないのが実情です。私のように食監を希望していったのに全然関係ない仕事もやらされて、辞めたくなる人もいるのではないでしょうか。

 

皆さんはどうでしょうか。思ってた以上の手ごたえを感じている日々ですか、それともこんなはずではなかったと堂々巡りにはまっていませんか。後者の場合、仕事を続けるのが本当に辛くなる前に、自分がなぜこの道を選んだのか、改めて自分自身と向き合って考えてみるといいかもしれません。

ノロウイルスの話 その1

更新がかなり空いてしまいました。

この時期はノロウイルスに関する仕事が増えてきます。

冬が来る前に書くべきですが、今日はノロウイルス(以下、ノロと略します)について書きたいと思います。

 

ノロの予備知識として、

・11月~3月の冬場に流行る

・一般的な食中毒菌よりも抵抗力が強く、小さい

・潜伏期間は24~48時間で、下痢・嘔吐(どちらも発症割合が約80%)、発熱が主症状

二枚貝の一次汚染、従事者等からの二次汚染がある

・不顕性感染者(ノロに感染しているが症状が何もない人)からも高濃度でノロが排出

・人を発症させるのに十分な量(10~100個)のノロ保有しているのに、簡易検査で  は陰性と出ることがある

 

こんなあたりでしょうか。

下痢・嘔吐の発症割合が約80%というのは、ノロに100人発症したら約80人が下痢・嘔吐が出るということです。冬に流行るというのがやっかいで、風邪、インフルエンザに症状が似ているので、「今日はなんだか熱っぽいな」と感じても風邪を引いたのかなと誤解してしまう可能性があります。また、私は当たった経験がないのですが、文献を読んだり、患者の方に聞き取った感触だと、下痢・嘔吐は突発的で、堪え切れないもの、トイレとベットの往復しかできない状態になることもあり、とにかく辛いそうです。そのため、普段と違う下痢が出たり、堪え切れない嘔吐が出たら要注意です。欠勤するか、食品を直接触らない作業に移るべきです。

 

私が過去に携わった食中毒事件で言うと、ある定食屋で一人で仕込み~調理を行う店主がいたのですが、本当は仕込み前に下痢が酷いということを実感していたのですが、そのまま調理を行ったところ、ノロで営業禁止になりました。サラダなど素手で触るメニューもありましたので、それが原因ではないかと推定されました。本人もその心当たりがあったため、こちらの話を真摯に受け入れていただきました。

 

注意点としては

・手洗いの励行

・体調不良を感じたら調理に携わらない

・検便検査をする時は簡易検査ではなく、PCR法等の感度の高い方法で行う

二枚貝はしっかり加熱する

 

ある給食業者で、毎月冬場だけにノロの検査をしているところがありました。聞いてみると簡易検査ということで、今までに陽性の人はいないとのことでした。個人的な意見ですが、ノロの検便は意味がないと思っています。その理由として、

①簡易検査でノロをやっても陽性と出ることはまずなく、陽性と出るくらいなら既に何かしらの症状が出ており、欠勤させるべき状態であること

②そもそも検便はその瞬間を切り取っているだけなので、それで陰性という結果が返ってきたとき、安心して普段の意識が下がる可能性があること

 

もちろん事業者の方には無意味とは言いませんでした。検査するなら感度が高い検査にしてくださいねと言った程度です。監視員によってどこまで言うか変わりそうですね。少なくとも私の周りではノロの検査法まで突っ込んでいる人がおらず、自分のやり方に少し不安を覚えましたが、自分が必要だと思ったことを「まあいいや」と思わず、根拠を持っていうことは非常に大事だと思っています。

 

ノロの話は掘り下げればたくさんありますので、別の機会でまた書きたいと思います。

 

 

 

モチベーションの保ち方

今回の記事は現在、食品衛生監視員(略して食監)として各地で活躍している人に向けて、「モチベーションの保ち方」について書きます。

 

私が常々思っていることですが、食監という仕事は

影の仕事であり、

ほとんど感謝されず、

成果が目に見えずらく、

生産性のない仕事です。

かなりネガティブなことを言ってすいません。ただ、このブログは私と同じ悩みを抱えている全国の食監に対し、「こんなことを思っているのはあなただけじゃないよ」と言いたいがために開きました。

 

公務員と一口に言っても多種多様です。道路・公共設備を作る、人命を守る、魅力的な観光地にする、よりよい教育環境にする…。挙げればきりがないですが、公務員の職種の中でモチベーションがかなり保ちづらいのが食監だと思います。だからこそこの仕事を続けるべきなのか、本当にこのままでいいのか、誰かの役に立てているのか…。自問自答を繰り返してしまいます。嫌がられることが多いでしょう。業者とやり取りしていても、信頼関係を築けることは稀で、多くは空虚な感謝の言葉が浮遊します。市民からはやって当たり前、それだけの指導でいいのかと文句を言われることもあります。食中毒というハードな仕事を終えても誰からも感謝されません。食品表示の着色料の書き方が不適切で正しい書き方に直させた、厨房の区画がないからドアを付けさせた、ナンは飲食店営業なのか菓子製造業なのか。どうでもいいことも真面目な顔をして取り組まなければなりません。本当に大切な仕事は極わずかで、ほとんどの仕事は何の生産性もなく、時にはこんな仕事に意味なんてないんじゃないかと。定時になって一人、職場の窓から沈む夕日を眺めながら、そんなことを思う日が時々訪れます。

 

それでもこの仕事を続けなければならない人もいるでしょう。私の場合、ほかに興味を持てる仕事がなく、転職しても仕事の空虚さはつきまとうと性格なので、現状に甘んじています。ではモチベーションはどう保てばよいでしょうか。私は以下のことを心掛けています。

 

・別の職場の食監の同僚、先輩に仕事について語る

・定時後にデスクの整理をする

・過去の自分の体験を振り返り、成長を実感する

・尊敬できる食監を見つける

・やりがいを少しでも感じるという部分に力を注ぐ

 

尊敬できる食監がいると、その人を目指そうという気になりますし、同じ食監ならこの仕事のネガティブな部分も感じていると思います。私は最初の数年は自分が成長している実感がありましたので、仕事にやりがいをもてていた時もありましたが、さらに数年たつとまだまだ知らないことが多いのに、成長している感覚がなくなっていきました。これは良くないことだと思いますが、経験値が増えれば増えるほど、この仕事の無意味さ、生産性のなさ、空虚さが身に染みていきます。それが嫌でこういうことを心掛けているのですが、どうしてもモチベーションが上がらない時はあります。そんな時は無理にモチベーションを上げず、仕事の質を落としてもいいので、省エネモードで最低限のことを淡々とこなしましょう。この先、食監という仕事はどんなことがあっても大きく変わることはなく、相変わらず影の仕事で、ほとんど感謝されず、成果が目に見えずらく、生産性のない仕事です。誰が何と言おうとこの事実は変わることはないと思います。私は数えきれないくらい悩み、続けるべきか辞めるべきかの堂々巡りの日々を何度も過ごしました。こんなことを思っているのは私だけなんじゃないかと孤独感に苛まれることもありました。しかし、この事実を受け止めて、どうしたらこんな仕事が少しでも前を向いて取り組めるのだろうと模索していきたいと思います。この記事が全国各地で活躍する食監に届き、少しでも気持ちが楽になったら嬉しいです。

 

採用試験について

桜が奇麗な時期ですね。就活の時期ですので採用試験について書きます。

食品衛生監視員の試験は、何かしらの資格がないと受けられず、多くは衛生・獣医区分で受けます。仕事内容が食品衛生監視員だけの自治体もありますが、採用された場合、食品衛生監視員以外にも環境衛生に関する仕事(理・美容所、公衆浴場などへの立入)、特定建築物に関する仕事(大規模な事務所・店舗ビルなどへの立入)を行うところが多い印象です。また、動物愛護に関する仕事、狂犬病などの人獣共通感染症に関する仕事を行うこともあり、獣医師免許があればと畜場へ配属されることもあります。つまり、食品衛生監視員を強く希望して採用されても、蓋を開けてみれば食品衛生とは全く関係のない部署に配属されることがあります。私は運よく食品衛生監視員として仕事ができましたが、同期や後輩には食品衛生監視員として働くことができない人がおり、有望な芽が摘まれている光景をよく見ました。なので、食品衛生監視員以外の仕事もしなければならない(=希望していない部署に配属される)ことを考慮して面接対策を考えましょう。

 

食品衛生監視員になるための試験は国家と地方の2種類です。

・国家…厚生労働省が行う試験で、全国の海や空港にある検疫所に配属される

・地方…地方自治体が行う試験で、都道府県や市町村によって勤務範囲が変わる

 

私はどちらも受けましたが、地方公務員だけ通りました。国家公務員は面接で落ちてしまいました。初めて霞が関に行き、皇居周りを散歩したのは良い思い出です。私は食品衛生監視員になれればどこでも良く、試験日が重ならない限り受けましたので、東京都、厚生労働省地方自治体2つを受けました。どの試験も専門科目は似ていますので、就職するつもりはなくても本命より前に試験があるなら、腕試しに受けるのも良いでしょう。参考までに平成30年度の試験日を載せておきます。

・東京都(Ⅰ類B採用試験)…5月6日(日)

厚生労働省…6月10日(日)

横浜市…6月24日(地方自体体の一例)

 

私の場合、試験日のある年の1月から半年間かけて集中的に教養と専門試験を勉強し、面接対策をしました。専門試験の科目はだいたいが「食品微生物」とか「食品化学」とか「公衆衛生学」とかアバウトな感じでしか出ておらず、過去問も入手困難です。私の場合、3冊の参考書をひたすら読んでました。参考に書いておきます。

①よくわかる食品有害微生物 問題集/藤井建夫・2010

②図解 食品衛生学第4版/西島基弘ら・2011

③現場で役立つ食品微生物Q&A第3版/小久保彌太郎・2011

 

①はかなり役立ちました。③はなくてもよかったと今では思います。各試験の出題分野に「〇〇学」等と書いてありますが、それに関する書物を厳選して購入し、ひたすら覚えるのが理想ですが、教養もあるので全部はやりきれないと思います。専門試験の一部は捨て、大学の授業で習った科目に絞って取り組むのが現実的な方法かと思います。試験日まであと少しです。食品衛生監視員の採用試験の場合、周りに目指す人がおらず、孤独な闘いになりやすいと思います。そんな時は、どうしてこの職業になりたいかという気持ちを思い出してください。きっと、採用後でも役に立つでしょう。